「それで、正体がバレちまったんですかい?」

「いや、バレてはいないんだけど……」



家に帰った俺は、今日のことを狸爺に報告していた。


何を隠そう、八木さんの話に出てきた男は、9年前の俺であるからだ。


そして狸爺は、あの時、彼女が助けた子狸だ。


今ではすっかり年老いているが、化術の上手い狸爺は、座布団の上に立派な信楽焼の狸の姿で、どっしり座っている。



「俺が彼女に羽を渡したことは知ってるだろ?」

「もちろん。ワシも見てやしたから。目の前で背中の羽をちぎって渡したんですよね?」

「ああ、迂闊だった。彼女はその羽を見て俺を思い出したらしい」



彼女は羽のことをどこまで覚えているのだろうか。


あれが俺の翼のものだと知ってるのか。

それとも、どこかで拾ったものを渡したと思っているのか。


「どうしようかな」


詳しく追求すると怪しいので聞けなかったが、今は、それがとても気になっていた。

そう悩む俺に、狸爺は冷静だった。



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