仮
◆
「それで、正体がバレちまったんですかい?」
「いや、バレてはいないんだけど……」
家に帰った俺は、今日のことを狸爺に報告していた。
何を隠そう、八木さんの話に出てきた男は、9年前の俺であるからだ。
そして狸爺は、あの時、彼女が助けた子狸だ。
今ではすっかり年老いているが、化術の上手い狸爺は、座布団の上に立派な信楽焼の狸の姿で、どっしり座っている。
「俺が彼女に羽を渡したことは知ってるだろ?」
「もちろん。ワシも見てやしたから。目の前で背中の羽をちぎって渡したんですよね?」
「ああ、迂闊だった。彼女はその羽を見て俺を思い出したらしい」
彼女は羽のことをどこまで覚えているのだろうか。
あれが俺の翼のものだと知ってるのか。
それとも、どこかで拾ったものを渡したと思っているのか。
「どうしようかな」
詳しく追求すると怪しいので聞けなかったが、今は、それがとても気になっていた。
そう悩む俺に、狸爺は冷静だった。