仮
「まあ、心配ないんじゃねえですかい?だって京平殿は、当時のまんまのお姿なんだから、同一人物とは思われないでしょう」
「それは言われたよ。だから彼女は、俺に兄弟がいないか尋ねてきたんだ」
「ほら、やっぱりそうだ。天狗と人間じゃあ、歳の取り方が違うんですから」
狸爺がウンウンと頷き、尻尾をパタパタと振る。
少し楽観的だが、確かに気にしても仕方がないかと、俺は悩むのをやめた。
「ありがとな、狸爺」
「礼は入りやせんよ。それより、ワシを助けてくれた女の子はどんな感じでした?」
「……なんでそんなこと聞くんだ?」
「いや、ちょっと恩返しをしようかと」
ポンッと景気の良い音がして、狸爺が老人の姿に化ける。
「この姿なら分かりやせんでしょ?こっそりやりやすし、バレるようなヘマはしやせんから」
真剣な顔でそう言う狸爺に、俺は仕方なく八木さんの特徴を答えた。
黒髪、ポニーテール、色白、細身………。
彼女の特徴を思い出しながら、列挙していく。
「こんな感じですかい?なかなかイケてやすねえ」
一通り特徴を聞き終えた狸爺が、俺の言った要素を元に変化し、鏡で確認しながら言う。
「もう少し鼻が高くて、輪郭が華奢だけど、大体そんな感じ。名前は八木かんなだったはずだけど、バレるなよ?」
「分かってやすって!」
狸爺はそう言って、八木さんの姿で無邪気に笑った。
俺はため息をついたのだった。