┗狸の恩返し

~SIDE 八木かんな


「はあー」



四月も中旬を過ぎた昼休みの教室。

葉桜になりつつある桜の木を、窓から見下ろしながら、私はため息をついた。



「やだー、かんな、またため息してる!」

「あ」

「もう!いい加減、理由を教えてよー!もう1週間ずっとじゃん!」



ぷくーっと頬を膨らませて、私を睨む杏。


もうごまかしは聞かないな。私は杏の顔を見て思う。


ここ一週間、私はあることに悩んでいた。

でも、悪い悩みではないのだ。ただ、なんというか不思議というか……。



「良いことが起こりすぎる?なにそれ!幸せじゃん!」



私の悩みを聞いた杏が首を捻る。「それのどこが悩みなのか」と聞きたそうだ。


まあ、そうなんだけど。

ちょっと都合が良すぎるんだよね。


困ってると、必ず助けが入るのだ。

それも頻繁に。

ちょっと度が過ぎていないかと、不自然さを感じてしまう。



例えば、今日はバスに乗り遅れそうになったところ、運転手に、あれこれ質問をしだす老人が現れてバスを引き止めてくれた。


日曜に駅前の繁華街に買い物に出たときに、なくしてしまったウォークマンが、家に帰るとポストの上に届けられていた。


杏と語り過ぎて、帰りが遅くなった日、痴漢に遇いそうになったところを、通り掛かった若者が、華麗に捻り上げてくれたこともあった。


他にもいろいろ。
小さなことでも助けられている。


この1週間、信号運の悪い私は、1度も信号に引っ掛かっていない。

私が通ろうとすると、必ず信号が変わるのだ。


運がいいだけかとも思ったが、ギリギリ逃しそうになったときに、妙に点滅信号が長くなり渡れたことがあり怖くなった。


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