仮
体育館についた私達は、誰か人がいないかと中を見渡す。
当然だが、既に式は終わっていて、ガランと広い体育館には椅子しか残っていなかった。
新入生達はきっと、もうクラスに移動しているのだろう。
教員も案内係も見当たらなかった。
「やっぱもういないかー。ちょっと中も見てみる?」
杏が靴を脱いで体育館へと入っていく。
私もそれに続いて中に入るが、やっぱり誰もいなかった。
静か過ぎて怖いくらいだ。
「やっぱ。職員室行ってクラス聞かなきゃダメかー」
「……職員室どこなんだろね」
軽くなった心が再び重くなる。
しかし、体育館の影で人影が動いたのを見逃さなかった杏が、声をあげた。
「かんな!見てあそこ!まだ人いるかも!」
杏の指差した、体育館の舞台の方に目を凝らしてみる。
幕や、放送室らしい部屋の窓を見るが人影は見えない。
「杏?人なんかいないよ。ホントにいたの?」
そう言いつつ、隣の杏に目線を戻すが、彼女の姿はすっかりなくなっていた。
私は驚いて杏を探す。
すると、杏は舞台の中からひょっこり顔を出し、こちらに向かって手を振ってきた。
「かんなー!先輩が案内してくれるってー!」
いつのまに。
杏の素早さに驚きつつ、手を振る杏の元へと近づく。
「かっこいいよ」
舞台からおりてきた杏が小さな声でコソリと私に耳打ちした。
何が?
聞き返そうと口を開こうとしたが、その言葉は飲み込まれた。
舞台の奥から生徒会の腕章をつけた黒髪の先輩がおりてきたのだ。
杏のいう通りだ。
私は思う。
サラサラの黒髪と、暗い舞台裏でもわかる整った顔立ち。
私は思わず目を見張った。
そんな私の反応に、隣の杏は満足げに頷いた。