「君達、名前は?」


先輩が落ち着いた、涼やかな声で尋ねる。


「松井杏です」
「八木かんなです」

「えーと。松井杏さんと、八木かんなさんで合ってる?ちょと待ってて」


ほぼ同時に答えてしまった私達の名前を、驚くべきことに、正確に聴き取った先輩は、ペラペラと紙の資料をめくりはじめた。

目を伏せて資料を見る姿は実に知的だ。


実際、先輩は賢いようで、何枚もの資料の中から、すぐに私達の名前を見つけてくれた。



「二人共、1年6組だね」

「一緒!?」
「やった!」


思わず杏と手を取り合って喜ぶ。

高校初の、しかも寝坊という同じ理由で遅刻してきた友達とクラスが同じだなんて、信じられない。

はしゃぐ私達に、先輩は更に嬉しいことを教えてくれた。



「二人は、出席番号も隣だよ。37番と38番」

「ウソ!」
「最高!」


遅刻で出鼻をくじかれはしたが、高校生活、楽しくなるに違いない。

私はそう確信せずにはいられなかった。


クラス決めは先輩がした訳ではないだろうに、目の前の先輩が神様の様に思える。

神様は優しかった。


「教室はすぐ前の棟の4階だけど、途中まで一緒に行こうか?」

「いいんですか?」

「いいよ、いいよ。俺も1階の職員室に用があるから」



先輩は、生徒会役員として、明日のクラブ紹介の為に準備をしていたのだという。

そこで使う音楽をいれたCDに不備がないか確かめていたらしい。


そんな優しい先輩の言葉に甘えて、私と杏は先輩と一緒に体育館を後にしたのだった。
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