仮
◆
「先輩、かっこ良かったねー」
林檎の香りの紅茶を飲みながら杏がいう。
「うん。しかも優しかったね」
同じ紅茶を飲みながら私は杏に同意した。
解散寸前に教室に辿りつき、無事に資料を受け取った帰り道。
私は杏の家にお邪魔していた。
可愛いオレンジ屋根の1LDKのアパートは、内装もオシャレだった。
つい先週引っ越してきたばかりだと、杏は言っていたが、綺麗に片付いている。
でも、家族で住むには狭い気がした。
それに杏の物ばかりで、寝室らしい隣の部屋がドアの向こうに見えるがベッドは1つしかない。
「杏ってさ、もしかして一人暮らし?」
気になって聞いてみる。
杏はきょとんとしたあと、「言ってなかったけ」と、とぼけた声で肯定した。
「実はさ、親父と喧嘩して、家出てきたんだよねー。家賃とかはママが払ってくれてんの」
頬杖をついてため息をつく杏。
家出して一人暮らしをはじめるくらいだから、相当な大喧嘩だったのだろう。
気になるが、杏は話したくないようなので、深く聞くのはやめることにする。
かわりに学校の事に話を戻した。
「そういえばさ、担任の先生、いい人で良かったよね」