MOONLIGHT
とりあえず、今夜は病院にいることにした。
戸田が急変するとは思えないが、一応念のため。
まあ、乗りかかった船だし。
オサムの病院も離婚ということになって、辞めたから、現在無職で時間はあるし。
あー、今日は酔っぱらって寝ちゃう予定だったのに。
まさかの展開になるとは。
だけど、おかげで落ち込む暇もなかった。
助かったのは、私の方かもしれない。
今のところ、私が見るべき患者は1人で。
だから、特にやることもなく。
詰め所を出て、廊下をしばらく歩くと、薬局の待合い。
そこの沢山並んだ端の椅子に腰掛ける。
夜中だからもちろん誰もいない。
照明もついていなくて、自販機の明かりだけのほの暗さ。
窓の近くにすわったので、思わず夜空をみあげる。
やっぱり、月は出ていない。
こんな時は月だ。
月が出ていれば、少しは心が満たされるのに-――
ムーンライト
私を照らして
ムーンライト
私はここよ
ムーンライト
私を照らして
ムーンライト
私が迷子になる前に
ムーンライト
貴方が好きよ
ムーンライト
貴方が欲しい
ムーンライト
貴方を照らして
ムーンライト
貴方を見失う前に・・・。
「ムーンライト」
思わず、歌っていた。
昔、オサムと見たミュージカル。
誰か、バイトの仲間がミュージカルが好きで、急に行けなくなったからと言って貰ったチケット。
結構いい俳優が出ていて、面白かった。
オサムと初めてのデートだった。
この歌が気に入り、すぐCDを買って2人で何度も聞いた。
オサムは、もう。
「ムーンライト」を忘れてしまったんだろうか。
もう、私を照らしてくれないんだね…。
そう思い、項垂れた時。
『ムーンライト
私を照らして…』
突然、誰かが歌いだした。