MOONLIGHT
13、無様になってみる
NY出張は、とても実りのあるものだった。
梶教授のマブダチのペック教授は、とても陽気な人だった。
快く質問や疑問に答えてくれて、手術や診察の見学も心おきなくできた。
4日間のNY滞在はあっという間に過ぎて。
そして、私自身考えることも色々あり、予定を繰り上げ半日早くとった帰りの飛行機の中では殆ど眠らず、自問自答を繰り返していた。
そんな私を、梶教授は黙って見守っていてくれて。
日本に着き、空港でそれぞれ家路につく別れ際。
「そんなに悩んでいるってことは、脈あり、ってことだろ?」
何が、とは言わず、そんなことをダイレクトに梶教授が言いだした。
「・・・どうでしょうか、T大の研究室には好意的に考えて下さる方も見えるかもしれませんが、何をいまさら裏切り者が、って思っている方も少なくないと思います。だから…。」
結局のネックはそこだ。
梶教授が私の言葉を聞いてため息をついた。
「そんなことはどうでもいい。結局、レイ姫は中途半端にしている研究をやりたいのか、やりたくないのか、だ。今回の出張でレイ姫の顔を見ていて、俺にはもうどっちかわかったがな。」
「………。」
梶教授の言う通りで、もう何も言い返せない。
「まあ、よく考えろ。ただ、鉄は熱いうちに打て、だぞ?NYで刺激を受けた今だからこそ、色々なアイデアが浮かんでるんじゃないのか?いいか?やりたいか、やりたくないかのどっちかだ。あとの細かいことは、どうにかなる。本当にやりたいことがあったら、他の事に関してプライドなんて捨てられるんだぞ。」
やりたいか、やりたくないか…か。
梶教授の言葉が、ストレートに私の胸に響いた。
梶教授と別れたあと、何だかボーッとしてしまって、取りあえず空港内の喫茶店にはいった。
注文を聞かれ、ハッとする。
アイスコーヒーを頼み、タバコをくわえた。
はあ。
とりあえず、将に電話しよう。
忙しくてNYについた日しか連絡してなかった。
拗ねてるかもしれない。
そう思ったけれど、コール音が流れ出した途端に、通話になった。
「将?」
『……。』
はあ。
案の定やっぱり拗ねてる。
「あれ?将?」
『……。』
まだ拗ねている。
もうっ。
「あれ、間違って電話したかな。一旦切る…『何で、1回しか電話してこないんだよっ。俺ずっと待ってたんだぞ!?』
ぷ。
怒ってる。
「忙しいから、電話できないかもっていってたでしょ。」
『そりゃ、そう言ったけど。だからって、俺の声聞きたくなかったのか?寂しくならなかったのか?』
もう、そんなに可愛い声出すなんて、反則。
私はクスクス笑いが止まらない。
「そんなの、決まってるし。だから、早く帰ってきたんだよ。さっき成田に着いたところ。」
『ええっ!?じゃあ、もう日本か?』
「うん。ちょっと疲れて喫茶店で休憩中だけど。」
『迎えにいくっ!!』
「え?仕事中でしょ?」
『大丈夫、3時間、空いてるから。空港で待ってて。車で迎えに行くから。30分くらいでつくから。近くついたら電話する。』
と、将は私の返事も聞かずに、電話に出た時とは打って変わって、上機嫌で電話を切った。
まったく、現金なやつ。
そんなことを思いながらも、私の気持ちも一気に上昇しだした。
疲れた体も、楽になったようだ。
恐るべし、瀬野将効果!!
1人でクスッと笑いを洩らした後・・・まだ将がくるまでに時間があると思い、私はバニラアイスクリームを機嫌良く追加注文した。
注文したバニラアイスクリームが運ばれてきて、上機嫌でウエハースにアイスをつけながら食べようとした時。
「レイ…か?」
突然・・・今となっては、懐かしい声が後ろからかけられた。
振り返ると。
やっぱり、オサム。
少し、痩せたようだ。
「オサム…。」
私が、しっかりとオサムの目を見て名前を呼んだことに、オサムはホッとしたようだ。
「本当に、お前には悪いことをした。」
そんなことを頭を下げながら言うもんだから、私は焦った。
こんな風に謝るやつじゃなかった。
だから。
「座ったら?」
なんて、つい誘ってしまった。