MOONLIGHT
振り返ると、誰かがタップを踏んで、歌っていた。
え?
『ムーンライト
私はここよ
ムーンライト
私を照らして
ムーンライト
私が迷子になる前に』
男の人。
プロ並みに上手い。
てゆうか、タップダンスも本格的。
え?
何、これ…。
『ムーンライト
貴方が好きよ
ムーンライト
貴方が欲しい
ムーンライト
貴方を照らして
ムーンライト
貴方を見失う前に』
歌い終わると、激しいタップが始まった。
伴奏はなにもないけど、頭の中に曲が流れて、その曲にぴったりと合うタップの音。
凄く上手。
てゆうか、プロ?
タン――
タップが終わった。
思わず、立ちあがって凄い勢いで拍手をしてしまった。
「はぁ、はぁ……拍手、ありがとう。何だか、今日初めてちゃんと、俺を見てもらえたって感じ?」
驚いた、プロ並みに歌って踊ってたのは、勘違い男、瀬野だった。
驚いて何も言えない私に、瀬野はクスリ、と笑った。
「『ムーンライト』なんて曲よく知ってたね?」
自販機で、お茶を2本買って私の横に座る。
はい、と言って1本差し出された。
戸惑いながら、受け取る。
「大学の頃、ミュージカルを見に行って、すごくこの曲が好きになって、CDも買ってよくきいていたから。ミュージカルも凄くおもしろかったし。」
「へぇ。大学何年?」
「あー、大学って言うか、大学院1年。」
そう言うと、瀬野がクスリと笑った。
「年、わかっちゃったー。このミュージカル10年前だから、今、33歳でしょ?」
「まだ、32。早生まれだから。」
「あー、俺も早生まれ。3月生まれ。城田さんは?何月?」
「……1月。」
「そっか。あ、俺ちなみに30歳ね?城田さんより2コ下。ねー、年下ってよくない?」
あー、勘違い男勃発だ。
「……年下は、もう懲りた。」
「あ、別れた旦那さんって、年下だったんだ?」
さらりと、今言ったけど!?
何でっ!?
「何で、そんなこと知ってるのっ!?」
思わず立ち上がってしまった。
「まあ、興奮しないで。いや、別に立ち聞きしてたわけじゃないけど、普通あんなヘビーな話、自販機の前でする?」
はあ。
「やっぱり、立ち聞きじゃない。」
瀬野を睨みつけた。