MOONLIGHT
「あれ?T大に向かうの?」
答える義理もないので、無視をする。
そこへ、携帯が鳴った。
梶教授だった。
『レイ姫、今どこだ?』
「もうすぐ、門につきますけど。」
『悪いが今から手術になった。俺の高校の恩師が心筋梗塞で倒れたんだ。意識がない…。』
梶教授の大切な人なんだろう、口調がいつもと違う。
「梶教授、私でよろしければ、手術のアシストしますが。」
自然と口から出ていた。
梶教授の恩師は、一命を取り留めた。
梶教授のホッとした顔が、印象的だった。
「佐竹先生がいなかったら、今の俺はないんだ。」
そんな事を呟いた梶教授は、いつもと違う顔をしていた。
誰にだってそういう部分はあるのだろう。
梶教授も、恩師のおかげで今があると感謝しているからこそ、もしかしたらこんなはみ出し者の私に尽力してくれたのかもしれない。
だったら、私は。
その気持ちにこたえなければいけないし。
後輩が窮地に立たされたり、間違った道にいってしまっていたら、手を差し伸べる事が、梶教授や大畑先生への恩返しなのかもしれない。
着替えが終わり、ハッとして携帯を見ると着信の嵐。
はあ。
将で埋め尽くされている。
慌てて電話をする。
1コール鳴らないうちに通話になった。
「ごめん、将。T大で緊急手術に入って…連絡し忘れてた。」
『もう帰れるのか?』
「うん、直ぐ帰るから。本当にごめん。」
時間は夜の11時すぎ。
『T大の第2駐車場に車停めて待ってるから、早く来い。』
「えっ!?何で、ここにいるの?」
『今日、単独インタビューを受けた西条さんの記事のチエック日だったんだ。夕がたから…その前に西条さんと飯食ったんだって?それで教えてもらった。凄くムカツク。』
完全に、悪意のある伝言だな。
「はあ。完全に誤解だけど。とりあえず、すぐ行くから。」
そう言って電話を切った。