MOONLIGHT
銀座のデパートからすぐ近くの、銀座総合病院にとりあえず運んだ。
ここの心療内科の立石先生には高校の頃、とてもお世話になった。
私がじゃなくて、母がかかっていたのだ。
事務長…オサムのお母さんは、精神的に参っていたらしい。
「あなたさえいなければっ。私たちはこんな目にあわなかったのにっ!!」
そう言って、私の目の前に立った事務長はいきなり私の頬を叩いた。
綺麗にはいって、それは痛かったけれど。
それよりも、事務長の心が随分壊れていることに愕然とした。
あんなにいつも強気だった人が。
私を叩いたあと、近くにいた男性店員に取り押さえられて、暴れたあと気を失った。
随分やつれて、見たところ脱水症状も起こしているようで、体が衰弱していた。
店員に私は医者だと言い、精神的なものと体が衰弱しているのでと説明し救急車を呼んでもらったのだった。
久しぶりに立石先生と会った。
事務長は今、鎮静剤で眠っているらしい。
点滴も行っているので、体力の回復も見られるだろうと言われた。
簡単に差し障りなくざっと経緯を説明すると、立石先生は、事情をわかってくれ家族に連絡をとだけ言った。
オサムの携帯番号を消去していなかったことをラッキーに思った。
単に消去し忘れていただけだけども。
「レイ?どうした?」
電話の第一声がこれなら、オサムも私の番号を消去し忘れてたってことか。
私は心の中で苦笑しながら、経緯を話した。
驚いたことに、オサムは休暇をとって東京に今日戻ってきたところだった。
「すぐ向かうから。迷惑かけたな。」
慌てた声でそう言うと、電話は切れた。
友好的な関係ではないから、病室の中で様子を見るわけにもいかず。
かといって、オサムが来るまで帰るわけにもいかず。
私は廊下の長椅子に、ぼんやり座っていた。
「あれっ!?レイちゃん!?」
可愛らしい声が聞こえてそちらを見ると。
夕真さんと、この前将の話のセンスが悪いって言った綺麗な人が立っていた。
聞けば、2人で点滴をうちにきたそうで。
「私は、つわりで気持ち悪いし、何も食べられなくて。で、つわりの私を見て志摩ちゃんも同じように気持ちが悪くなって、食べられなくなっちゃって、2人で点滴しに来たのー。」
夕真さんがゲラゲラ笑う。