MOONLIGHT
3、住み処
結局。
鎌倉学院大学病院に勤めることになった。
神田先輩の泣き落としと。
大畑先生の一声で。
「私、鎌倉学院大学で名誉教授になってるの。丁度よかったわ。あんた、私の下で働きなさい。」
はいはい、わかりました。
私が了解すると、先生は満足げに続けた。
「准教授にしてあげるわ。神田、よかったじゃない、循環器内科のいい医者がみつかって。早速、授業もたせられるわよ。あんた2年前まで、母校のT大で教えてたんだから、できるでしょ。」
御意―
私の母校のT大は、日本で1番の学校といわれている。
もちろん医学部も。
大畑先生は別の大学出身だが、循環器の権威で、T大に招かれ長く教鞭をとってみえた。
67歳で退官された後、鎌倉学院大学で2年前から名誉教授として再び教鞭をとっている。
鎌倉学院大学の理事長の息子である、神田先輩の泣き落としによって。
御歳、74歳。
まだまだ現役だ。
住む所は、戸田の紹介で直ぐに決まった。
戸田には、物凄く感謝された。
まあ、私が気がつかなかったら、もう少し時間がたってしまっていて、後遺症が出ていたかもしれない。
ラッキーだった。
偶然にも戸田は、鎌倉が地元で、なんでもとても大きな華道教室をやっていて、本人も有名な華道家だそうだ。
あのイゴツイ顔で。
人は見かけによらないな…。
ということで。
直ぐに病院の近くのマンションを紹介してくれた。
何故か、新築で高級感があふれている。
最上階の3LDK。
家具つき。
3LDKと言っても、物凄く広い。
家賃を聞いたんだけど、最初はいらない、と言われ。
それじゃ困る、と言ったら少し待て、と言われて。
いつまでも、鎌倉のホテルに泊まっているわけにもいかないし。
それに、何故かホテル代もタダになっていて。
何でも、横須賀のあのホテルと、この鎌倉のホテルのオーナーが同じで、バーラウンジで客を私が助けたことにとても感謝されて、わざわざ次の日病院までお礼に社長がみえた。
まあ、その社長、戸田の友人だったようで、それも大きいみたいだけど。
はあ。
だけど、本当に困る。
私は、他人には借りを作らない主義だし。
それに、こんなに広いのも、困るし。
やっぱり自力で探そうか、と思って不動産屋の前で、物件の張り紙を見ていた。