MOONLIGHT
最終章、ムーンライト
☆私を照らして
21日から始まる将主演の舞台、『ムーンライト』は、新聞でもベタホメなくらい、前評判がよかった。
1日、昼、夜と2回公演で会場も大ホールといわれる場所なのに、チケットは即日完売をしていた。
私は12月とも言えども仕事は多忙で。
来年の4月からはゼミももつ予定で、T大の研究のほか、その準備にも追われていた。
定時では到底帰れず、帰宅も深夜になることも多くなった。
弁慶が可哀相なので、将は楽屋があるということもあり、リハーサルの時から弁慶を仕事場に連れて行くようになっていた。
私と出会う前は、こういうこともよくあったようで、将がいうには弁慶も慣れているとのことだった。
だけど。
何だか、このところ弁慶が元気がない。
てゆうか、疲れているようだ。
そのことを将に伝えたのだけど。
「レイが忙しいくて、あまり一緒にいられないから、拗ねてるのかも…てゆうか、俺がそうなんだけど?」
と、途中から自分の話しになり、挙句の果てはガッつかれ、美味しく将に食べられてしまった。
舞台初日前日。
やっぱり気になって。
夕方まで本番舞台でリハーサルって聞いていたから、午後T大の打ち合わせが終わった後、こっそり様子を見に出かけた。
なのに・・・。
「あ、レイちゃん!」
…何という不運。
木村さんに見つかってしまった。
声を不意打ちでかけられ、ギクリ、という形でかたまっている私に笑顔を向けてきた。
「こ、こんにちは。」
明らかに挙動不審だろう。
ぷっ、と吹き出している。
「将の様子を見に来たんだ?」
「いえ…弁慶の様子を。」
真面目にいったのに。
そう言ったらまた笑われた。
そして。
「後ろで、拗ねてるけど?」
と付け加えられ、慌てて振り向くと。
ぶっちょう面の将。
仕方がないので、将の好きな冬色というケーキ屋のケーキ詰め合わせを差し出した。
陣中見舞いで100個頼んだのだ。
典幸をつかって。
冬色という店は、葉山クリスタルのビルにはいっているから、私もよく昔から食べたのだ。
とりあえず、将の機嫌はなおったらしい。
安い男だ。