MOONLIGHT
だけど、弁慶は安くない。
私の声が聞こえたのか、弁慶の泣き声が奥の部屋から聞こえてきた。
「弁慶は?」
私が聞くと、将が今預かってもらってる、と言った。
共演者が犬好きで、飼っている犬を連れてきて一緒に遊ばせてくれているというが。
あの弁慶だ。
そんな、犬のお友だち関係が直ぐにうまくできるのか?
そんなことを考えていたら、案の定。
「将さーん。弁慶ちゃん、急に鳴きだして暴れだしちゃって…どうしたんでしょう?」
とっても可愛らしい女の子が入ってきた。
弁慶を腕に抱いて。
弁慶が私を見るなり、暴れ出した。
「キャッ。」
「弁慶!」
咄嗟に、かけより寸前で弁慶をキャッチした。
いわゆるスライディング状態で。
だけど、勢い余って。
ゴンッ――
壁に激突した。
頭から。
「レイッ!」
将の声が遠くで聞こえ・・・・。
目を開くと、知らない部屋に寝かされていた。
ソファーの上。
「あれ?」
キョロキョロ見回すと、壁に作り付けの大きな鏡台があって。
その前には、将のポーチが置いてあった。
「クゥーン…。」
弁慶がソファーの下で、お座りをして私をじっと見ていた。
「弁慶、おいで?」
手を伸ばすと、耳を垂れてパタパタと尻尾を振るだけ。
あれ?
おかしいと思って抱き上げた。
「弁慶どうした?」
何となくわかる。
人間で言えば、泣きそうな顔。
ああそうか。
「弁慶のせいじゃないよ。このところ忙しかったから。よく寝たー。」
そう言って、弁慶を撫でくりまわした。
すると弁慶は咽をならしながらちぎれんばかりに尻尾を振って、私にべったりと張り付いた。
「レイッ?大丈夫か?」
将が部屋に入ってきた。
「うん。脳震盪をおこしたみたいだね。疲れもあって、寝てしまったみたい。騒がせてごめん。」
そう言うと、将が困った顔をした。