MOONLIGHT



タクシーで大丈夫だ、と言うのに、青山さんの所から迎えが来た。


この間のスペインのデザイナーのスーツを着ていた男の人だ。

青山さんの内弟子さんらしい。

ワイルドなタイプなのに、この人も華道をするんだ。


「芝崎君、レイのこと頼んだぞ?」

「はい。」


クールで随分無口な人。


私は大人しくなった弁慶に、後でね大好き、とキスをして頭を撫でた後歩き出した。


「レイ、俺には?」


弁慶に負担をかけているくせに、図々しい事を言うから顔も見ずに、後でね、と言って足早に部屋をあとにした。









無言で芝崎さんと廊下を歩く。


「レイちゃん。」


後ろから、木村さんが追いかけて来た。

振り向くとすまなそうな顔をしている。


「何ですか?」


何となくわかるけど。


「いや…何か、ごめんね?将も…「止めましょう、今は舞台を成功させることが第一でしょ?だから、言い訳なんていりません。話すなら、この舞台が終わってからにします。」


今何を言おうが、変わらないだろうし。

言わなくてもいいことまで言いそうだから、止めておく。

木村さんは、まいったなと頭をかいた。

まいっているのは、弁慶だよ。

今日帰ってきたら、いっぱい撫でて、キスをしてやろう。

じゃあ、と踵をかえそうとしたら、また声をかけられた。


「すみません。ちょっと宜しいですか?」


紺のスーツを着た知らない人だ。

オーバーオールが似合いそうな感じの人。

つまり、太っているんだけど。


「はい?」


私が、返事をすると木村さんが焦った顔をした。


「レイさんはもう、今から帰られるんですが。」

「いや、でも。ちょっとお話をしておきたいんですよね。」


口調は穏やかだけど、有無を言わせない高圧的な感じ。

木村さんが、将を呼んできます、と慌てていこうとしたけど。


面倒になって、手短に話してもらえますか?と切り出した。




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