MOONLIGHT
「ねぇ、この車って禁煙?」
ダメもとで、ハンドルを握る芝崎さんにきいてみる。
直ぐに向けられたのは、申し訳なさそうな顔。
「すみません。この車、夕真さんも乗るんで…。」
「そっか、じゃあ仕方がない。」
そうだよね、夕真さんは構わないというだろうけど、青山さんが絶対に許さないだろうな。
だけど、吸えないとなると吸いたさは増し、イライラがつのる。
「ねぇ、じゃあ、申し訳ないけど。そこで降ろして。」
「はっ!?」
「だから、車降りてタバコ吸いたいの。」
かなり無理を言っていると思うけど。
何でもかんでもいうとおりにして、タバコまで自由に吸えないとは、人権無視だろ。
返事をしない、芝崎さんにイライラしていたら。
車を立体駐車場に入れた。
「いやいや、私だけ降ろしてくれればいいから。適当にタクシーで行くから、気を遣わないで。」
待っていられたら、タバコもゆっくり吸えないし。
だから、多分少し嫌な顔をしたんだと思う。
芝崎さんは、そんな私にため息をついた。
「車、今日ここに置いていくか、後で代行運転頼みます。で、飲みに行きませんか?今日菊弥先生も、夕真さんも、家元も京都泊なんです。だから、城田先生を送ったら仕事終わりなんですけど。久々に飲みたくなって。てゆうか、俺城田先生と結構話したかったんです。」
「え?何で?何を?私の話ききたいの?もしかして循環器の話?」
まったく理解できなくて、きき返した。
「ぶっ…いや…くくっ…循環器の話は別にききたくないですけど…っていうか、飲みに行くのにわざわざ専門職でもないのに、内臓の話はしないですよね?…くくくっっ……。」
何故か笑われてるけど。
「まぁいいや。直ぐにタバコが吸えるならなんでもいい!!早くいこう!!」
私は、サッサと車から降りた。
芝崎さんも車から降り、クスクス笑いながらこっちです、と案内してくれた。
連れていかれたのは、古いビルの地下の静かなバー。
かなり雰囲気がある。
カウンターの隅に2人で腰掛ける。
早速灰皿をひきよせ、タバコを咥え火をつけた。
「あはは…生き返った、って顔ですね?」
私の顔を見て、芝崎さんが笑う。
「違うわよ。生き延びた、よ。まだ死んでない。」
私のへ理屈に、なるほどと笑う芝崎さん。