MOONLIGHT
あれ、クールで無口は勝手なイメージだったか。
案外人懐っこいな。
マスターは芝崎さんと同年代の20代前半のようだが、店同様雰囲気がある男だ。
イケメンではないが、色気のある男っぽいタイプだ。
まあ、もてるだろうな。
「いらっしゃいませ…って、孝太郎。お前今日スゲーイイ女連れてるなー。やっと本命ができたか?初めまして、俺ここの店のオーナーで、籐本です。孝太郎とは、大学の同期で、色々悪さをした仲です。でも、この店…「生ビール、二つ。」
最初の、雰囲気云々の第一印象はこのおしゃべりで、大無しとなった。
私のピシャリ、とした物言いに驚いた顔をするおしゃべり男。
芝崎さんがゲラゲラ笑う。
何がおかしいのか。
ふと、自分の言葉を思い出し、芝崎さんに今の生ビール私の分だけだから、自分は自分で頼んで、というとキョトン、とした。
「えーと、何で2ついっぺんに頼むんですか?」
「酒、好きなの。1つ飲んで、注文してって、待つの面倒でしょう?ま、勝手にさせて。私、酒飲むのとタバコ吸うのに人に気を遣われるの嫌いだから。」
そう言って、根元まで吸ったタバコをもみ消し、直ぐに新しいタバコを咥える。
「じゃあ、俺も生2つ。」
「気を遣わないでって言ったはずよ?」
「気は遣ってませんよ。単なる好奇心です。」
タバコに火をつけながら、芝崎さんを見るとニヤリ、と嗤う。
「・・・やっと、本物の顔が見れたわ。ついでに、こうやって飲むときぐらい敬語とったら?だれもいないし。」
芝崎さんは普段、礼儀正しい。
ここまで来るのも対応は丁寧だった。
だけど、素の顔はかなり危ない。
きっと、青山さんはそれをわかって彼を使っているんだろう。
今の彼の歪んだ嗤い顔で、その一面が垣間見えたような気がした。
はぁっ、と彼がため息をついた。
「参った。菊弥先生に水ぶっかけて、黙らせたり。あの志摩さんに説教したり、夕真さんを無視したり…いや、何と言っても…あの美意識とプライドの高い将さんを骨抜きにしたって話だけでも、無茶苦茶興味あったのに。今度は、俺をぶった切るのかよ。」
一気に表情が自然になり、敬語もなくなった芝崎さんはやはりそこらにいる男とはけた違いに、デンジャラスな感じがした。
だけど、違和感のような気持ち悪さは感じなくなった。