MOONLIGHT
「こんにちは。城田先生。」
後ろから優しい声がした。
振り向くと、高そうな外車から降りてくる、優しそうな男性。
ああ、戸田のところのお婿さんだ。
頭を下げると。
「父が本当にお世話になりました。」
会うたびに、何度もいわれる言葉。
私はいえ、と言いながら居心地悪く、首を横にふる。
「今日は…?不動産屋に?何か?」
いぶかしげに私を見る。
言い辛いけれど、こういうのははっきり言った方がいい、と思い、目の前の男に頭を下げた。
「私の住まいのことで、戸田さんには色々ご尽力いただいていまして、感謝していますが、やはり、自分で探そうと思っています。」
「え?もう、お貸しする部屋も決まっているじゃないですか?」
「はい。ですが、辞退させていただこうと思います。」
「えぇっ!?な、何か、気に入りませんか?」
「いえ、大変素敵なお部屋です。ありがたいと思っています。ですが…。」
「じゃあ、何で?私どもは、城田先生に感謝しているんです。ぜひ、感謝の気持ちとしてうけとって頂きたくて…。」
「感謝の気持ちはもう、受け取りました。言葉で。あの日駈けつけたご家族の、安心したお顔で充分です。」
「いえ、それでは私どもの気持ちが…。」
だめだ、これでは。
はっきり言おう。
「はっきり、いいます。私のした行為は、医者として当然のことです。金品で、お礼は必要ありません。人の生死にかかわることで、お礼を頂くことほど、私は後ろぐらく感じて嫌なんです。すみません、お気持ちだけ受け取ります。」
そう言って、私は頭を下げて、足早に立ち去った。
何となく、言いすぎたかな、と反省したけれど。
でも、もやもやした気持ちがすっきりとした。
もう、この際、ホテルも引き払おう!!
すっきりついでに、宿泊費ただのグランドヒロセ鎌倉も出よう、と思った。
もう少し安いホテルに移って、早めに部屋を決めよう、と考えた。