MOONLIGHT
芝崎の言葉に、私は振り返った。
そのまま、芝崎の所へ戻る。
そして。
「ふざけんな。人生舐めるんじゃない!人生を選ぶのを人のせいにするな!自分の道は自分で決めろ!決めたのは自分だ!決めたなら人に左右されるんじゃない!!事情があったって、それは芝崎がきめたことなんだろ?だったら、私に左右されるな。たとえ今自分の思うようにならなくたって、それは自分で解決することだ。私がどうなんじゃない、芝崎が人生を変えるか変えないか、だ!!」
私は獣医ではなく医師の道を選んだ。
私は研究を捨て、オサムのもとへ行った。
オサムの無茶な言い分を聞いたのも私。
わずらわしいと思ったけど、戸田を助けたのも私。
将のマンションに引っ越したのも私。
将を、受け入れたのも、私。
色々な要因があったって、結局は。
決めたのは私なんだ。
だから、失敗しても。
誰のせいでも、ない。
私がまっすぐ、芝崎を見据えると、芝崎はため息をついて、俯いた。
「……まいった。」
「は?」
「全く、レイさんの…言う通りで…返す言葉もない。俺、かなりダセー。」
私は、芝崎の髪を撫でた。
シュンとした姿が、想像できなくて。
目の前にしたら、つい慰める形になっていた。
驚いて、芝崎が顔を上げた。
「・・・どんな時も、俯かないで顔を上げてな。ダセー芝崎も受け入れてみろ。それが自分だってみとめたら、人生変わるかもしれない。」
そう言うと、私はまた踵を返し、玄関へ向かい始めた。
「レイさん。」
後ろから、芝崎の声。
「ん?」
振り向かずに、声だけで返事をする。
「俺、レイさんが好きだ。」
「・・・どうも、ありがとう。」
私は、礼を言った。
歩みを止めず、そのまま歩き続け、廊下を曲がった。
玄関のドアを開けかけると。
『ムーンライト』の鼻歌が聞こえてきた。
何となく、将を見ていたくて、隙間からのぞく。
将は、軽く曲にあわせてタップを踏んでいた。
それはもう。
優雅で―――
将の作品は見たことがないけれど、わかってしまう。
この仕事は、将の天職なんだと・・・。
細く開いたドアの隙間から、私は月に願う。
どうか。
どうか。
将をこのまま照らしつづけて下さい。
私の愛する将が。
人の喝采をうけ続けられますように―――