MOONLIGHT
☆貴方が好きよ
12月25日。
将と約束はしていたけれど、水沢の事務所の社長に言われたこともあったし、観劇はやめて打ち上げだけの参加にしようと思っていた。
だけど。
そんな理屈が通る人ではなくて。
誰がって……。
夕真さんが。
「レイちゃん!1時間後に芝ちゃんがマンションに迎えにいくからねっ。今日会場に着ていく服とかは一式こっちで用意しているから。泊まりのよういだけしてきて!!それから、今回はかわいそうだけど、弁慶はホテルに預けてきて。ペット同伴はむりで、長時間になるから。じゃね!」
って、言いたい事だけ言って、こちらが何か言う前に電話を切った。
さすが夕真さん。
何でもありだ。
周りもよほどの事ではない限り、夕真さんを放置しているし。
もう、笑うしかない状況だ。
しかも迎えが芝崎とか!
あり得ないだろ?この間思いっきり芝崎を振ったばかりだし。
きっと根にもっているかもしれない。
だけど、現れた芝崎は普通で。
私よりずっと大人だと思った。
高速に乗った。
芝崎の車は黒の高級ワンボックスカー。
外車で、8人乗りだが、内装は革張りで凄く乗り心地がいい。
この前戸田の所に来たように、多数で移動することもあるんだろう。
高速のスピードでも、流れるような運転で、快適だ。
多分、運転が上手いのだろう。
将は、周りに迷惑をかけないよう、事故には気をつけているようで、スポーツカーに乗っているくせに、かなりの安全運転だ。
もしかしたら無口キャラ同様、スポーツカーに乗っているのは事務所の意向なのかもしれない。
将は、芝居が好きで、そのために全てを合わせているようなところがある。
まあ、悪く言えば、芝居バカ。
だけど、それだけ一心に芝居に打ち込んでいるということだ。
この間の弁慶を水沢に預けたのもそういうことからだったんだろうな。
チラリと芝崎を見る。
ハンドル捌きも、そつがない。
たまにこういうやつがいる。
本人が大して意識していないのに、モテるやつ。
車の運転のセンスのよさからだけでも、モテるだろうとわかる。
きっと、素の将だったら、芝崎の方がモテるだろうな。
やっぱり、事務所のキャラ設定はそう考えると、必要不可欠なのかも。
何しろ、無口大人キャラの殿堂入り抱かれたい男の本性が、ペットにマジギレするちっさいお喋りスネ男君だし(笑)
いつの間にか高速を下りていた。
確か、前に来た時、高速を下りて10分たらずで青山さんの家に着いたっけ。
てことはもうすぐか。
そんな事を考えていたら。
急に、コンビニの前で、車を芝崎が停めた。
「レイさん、もうすぐつくけど。中に入ったら、タバコ菊弥先生がいるから、吸えないけど。今のうちに吸っとくか?」
「あー、そうだった!禁煙地獄だ!吸う!吸う!…だけど、コンビニの前はちょっとな…。公園とかない?」
「あ、ここ真っ直ぐ行くとあるけど。コーヒー買いたいんだけど、ちょっと待っててくれるか?」
「いや、歩いて先行く。芝崎がタバコの話をするから、我慢できなくなったし。あ、コンビニ行くならこれ買ってきてほしいんだけど、1カートン。」
タバコの箱から残り2本を取りだし、その箱を芝崎に万札と一緒に渡す。
芝崎が、全く…という顔で私を見たが、もう私はドアを開けていた。
歩きながら火はつけないが、タバコをくわえる。
急いで公園を目指した。