MOONLIGHT
公園についてベンチに座り、タバコに火を着けた。
ホッとする。
まだ朝の9時で、青山さんの家から将の芝居の会場まではわりと近いので、時間には余裕がある。
寒いせいか、公園内に人の姿はない。
遠慮なくタバコが吸えるな、なんて思った時。
携帯が鳴った。
見ると、オサム。
用件はなんとなくわかったが、早々に通話ボタンを押した。
「はい。オサム?」
『ああ…まだ、俺、登録けされてないんだ?』
いつもの、オサムだ。
「うん…てゆうか、単に削除し忘れていただけなんだけど。」
つい、正直に言ってしまった。
『ぶっ。何だよ、それ。ある意味、削除されるより悲しいだろ!』
「ふふ。そうかも。だけど…別れた時、削除しなかったんだから、きっとこれからもしないだろうな。これからは同じ道を行くもの同志だし。」
『レイ…。』
「で、用件は?」
『あ、ああ。そうだ。レイ、色々ありがとな。お袋連れて札幌戻ることにした。狭山院長にもお袋の事情話しておいてくれたんだな。』
狭山とは、私の大学の同級生で、オサムに夜勤のバイトを紹介した先だ。
今回のことは、オサムに内緒で狭山に話しておいた。
狭山クリニックは心療内科もある。
事務長のことで、相談にのってもらえるかもしれない。
「いや、役にたってよかった。北海道は寒いけど空気もいいし、食べ物もうまい。狭山クリニックのあるところは、札幌の中心部だからデパートもあるし、事務長も気が紛れるんじゃない?よくなるといいね。」
そう言うと、電話の向こうのオサムが黙り込んだ。
すすり泣くような声が微かにきこえる。
「オサム、丁度よかった。報告が私もあったんだ。T大の研究再開した。来年の4月からは鎌倉学院大学と兼務で教鞭を再びとる。オサムが空港で背中を押してくれたおかげだよ。」
迷っていた心が、オサムの言葉で決まったことは本当だ。
『…そ、そうか。よかった。レイには散々俺の面倒を見させて、遠回りさせたもんな。レイ、色々世話かけた。何て言ったって、国家試験2年遅れで合格だもんな。教えるの大変だったろ。』
自嘲気味にオサムが笑った。
「何を言っているの。今の私がいるのは、オサムのおかげだよ。」
『はっ、まさか。』
最後はどうであれ、オサムの事で、いろいろ成長させてもらった、って思っているのに。