MOONLIGHT
★麗しい月
将の舞台は、大大大喝采で幕を下ろした。
客席全員がロマンチックな感動を味わったようだ。
私と芝崎以外…。
「ぶーっ!……くくっ…くくっ…。はぁはぁ…。」
芝居が終わって2時間後、打ち上げ会場となるイタリアンレストラン『イタリアーノヒロセ』
に到着しても、芝崎は思い出し笑いをしていた。
「いい加減にしてよ、芝崎…。」
「わ、悪い…だけど、あのタイミングで、トイレって…。アホだろ…くくっ。」
「と、とにかくっ。皆には言わないでよ!特に将には!あれで一生懸命だったんだからっ!」
そう言うそばから、芝崎は頷きながらもまた吹き出していた…。
「レイ。」
別移動で先に来ていた将が、スーツ姿で私の所にやってきた。
肩を抱き寄せ、おでこにキスをくれる。
「悪かったな。芝居優先で、共演者の我儘に付き合わせて、気分悪かっただろ?芝崎君の菊弥先生への連絡で話は聞いてる。」
芝崎…言わなくてもよかったのに。
私は首を横にふり、別に気にしてないよ、と答えた。
だけど、そんな将は私の顔を見て、気にしないわけないだろ、ごめん、と私を抱きしめてきた。
って。
ちょっと!
「将!ここでこんなこと恥ずかしい!!」
「充電中だから何言ってもダメ。」
私がじたばたするのに将は離してくれない。
何か、光ってるし…って、ええっ!?
「将、写真撮られてる…。」
そうだ、今日は会場にマスコミも入っていたんだ!
こんなことしてたらダメだろ。
将は、そうだ、写真とってもらうなら顔見せないとね、といって腕を解いて私の手をとった。
え。
写真撮ってもらう気満々なわけ?
「おい、将。そろそろ、打ち上げ始まるから。
プロデューサーと監督と、主演のお前と、相手役の水沢さんの挨拶あるぞ?早くしろ。あ、レイさんも将のそばにいていいですから、前の方に行きましょう。」
木村さんがこちらにやってきたかと思うと、そう急かしてきた。
だけど。
「あ、ごめんなさい。後で合流します。うちの研究室の学生が来てるんで、心配なので彼らとしばらく一緒にいますから。」
そう言って断った。
将は、じゃあ乾杯終わってしばらくしたらそばに来てくれ、紹介したりするから、と言い残し仕事の顔になり挨拶の方へ行ってしまった。
私は将の姿を目で追いながら、プロだなと思った。