MOONLIGHT
窓の外に目をやると。
今日は空に月はない。
そう言えば、このホテルに入る時に見上げた空は、曇っていたっけ。
こんな状況のなか、月もでてないって。
まるで神様は、この状況を楽しんでるようだ。
なんて。
神様なんているわけは、ないか。
今回のことで、思い知ったもんね。
「ひとり?」
ぼんやり、窓の外を眺めていたら、声がかかった。
ハスキーだけど、心地よい声。
振り返らなくても、窓に映る長身の1人の男が見えた。
ガラス越しでも充分わかる。
イイ男だ、多分。
いや…イイ男っていうのを、自分でよく知っている、っていうタイプの男。
「…何か?」
振り返りもせず、思わず出たのは、冷たい声と言葉。
男が一瞬キョトン、とした後。
クスリ、と笑った。
そのまま男は、私のテーブル、向かいの席に座る。
図々しい男。
これが、私の彼に対する、第一印象だった。
向かいに座った男に目も向けず、窓の外を眺め続けた。
煙草が短くなったので、灰皿に押し当てる。
男の視線を感じるが、視線を向けずそのままにしておいた。
しばらくして。
手を少しあげ、白髪のタキシードを呼ぶ。
「バーボン、同じもの。2つ。」
テーブルにあったロックグラスをあおった後、氷だけになったグラスを、白髪のタキシードに手渡しながらそう言った。
目の前の男が、一瞬嬉しそうな顔をした。
それを見て、私の意図がわかったのか、白髪のタキシードがかすかにニヤリとした。