MOONLIGHT
白髪の男が、バーボンロックを運んできた。
さっきから思っていたけれど、猫のように音もなく歩く男だ。
隙がないっていうか…。
目の前の男が、怪訝な顔をした。
「ちょっと、浜田さん。何で?」
常連なのか、目の前の男は、私の前に置かれたロックグラス2つを見て、批難するように白髪のタキシードに抗議をした。
私は、バカな勘違い男をしり目に、バーボンロックを1つあおり空にして、浜田というらしいタキシードに空いたグラスを渡す。
そして、残りのグラスをコースターごとずらし、私の前に置いた。
その様子を驚いた顔で見る勘違い男に、ニヤリと笑って見せる。
それから口の端で煙草を咥え、ライターに手をのばせば、すかさず火を出す懲りない勘違い男。
私は、ため息をついて、咥えていた煙草をケースに戻した。
「おい、坊主。営業妨害するなら、つまみだすぞ。」
やっぱり、隙のない男だった。
さっきまでの営業用のそれとは違う低い声。
大きな声でもないのに、かなり迫力がある。
「客に、その態度はないだろ?」
だけど、こちらもこちらで、勘違い男もなかなかの迫力だ。
「はっ、まだお前注文もしてねーじゃねぇか。今お前がやってることは、お客様にからんでるだけのただのナンパだろ?」
私は、吹き出した。
まったく、その通りで。
そこへ、またもう1人、男が現れた。
「おー、将ちゃーん。おまたせ!・・・おおっ!?このすっげぇ美人のおねーさん、どちら様?」
勘違い男と、親子ほども違う年上の恰幅のいい、イゴツイ男が首の根元を触りながら、私をまじまじと見つめた。
浜田というタキシードが、ため息をついた。
そして私にすまなそうな顔を向けた。
「お客様、申し訳ございません。お席を別におつくり致します。」
おや、と思った。
だけど。
「いいわ、この席のままで。煙草さえ好きに吸わせてもらえるなら…それに、あまり長居もしないから、構わないわ。」
そう言って、もう一度私は煙草を咥えた。
今度は、火は差し出されなかった。
だけど、目の前の男に加え、新たに加わったイゴツイ男の視線がうるさい。
ずっと、見られている。
首をさわりながら。
首を触るのが、癖か?
しかも、浜田というタキシードまで…。
はあ。
何なの?