MOONLIGHT
少し、イラッとして、バーボンをあおった。
空のグラスを浜田に差し出し、言葉を続けた。
「生ビール。2つ。」
あと、ビールを飲んだら帰ろう。
結局、あまり酔えなかった。
「あー、じゃあ、俺も生2つー。」
勘違い男が、何の真似か同じ注文をした。
そして。
「ってことは、俺も流れ的に、生2つ?」
イゴツイ男まで、同じように注文した。
結構、空気を読むタイプなのか。
ああ、もしかしたらこう見えて神経質なタイプなのかもしれない。
首の癖もその表れか。
「………かしこまりました。」
かなり不本意な様子で、浜田が応えた。
「ねー、おねーさん、何歳?」
イゴツイ男が、話しかけてくる。
煙草を吸いながら、横を向いて無言で窓のそとを眺める。
「名前なんていうの?あ、俺は、戸田誠でー、こっちのイイ男が、瀬野将っていうんだけど、もちろん知ってるでしょー?」
知ってるわけないじゃん。
すかさず、突っ込みたかったけれど、バカバカしいので、スルーした。
なんだか面倒になってきたところに丁度タイミングよく、電話がかかってきた。
ホッとしたのもつかの間。
着信欄を見ると…大畑先生。
はあ。
ため息をひとつついて、店内を見渡す。
客は私たちだけだ。
目の前の2人に一応頭を下げる。
「はい。」
『あ、城田?』
城田は旧姓。
周囲には結婚は隠していて名前も城田で通していた。。
オサムが一人前になってから発表して、大々的に結婚式をしたいといったからだ。
まあ、年下で医師免許も2年遅れで取得したという引け目が、オサムにもあったからかもしれない。
結果的に旧姓にもどったんだから、正解だったのかもしれないけれど。
結婚の事を知っていたのは、この大畑先生とごくわずかな知人だけ。
「はい。先程は、お忙しいのにありがとうございました。」
ゼミの担当教授にはいつまでも頭が上がらない。
特に私は、秘蔵っ子と言われるほど、大畑先生には目をかけてもらった。
いや、未だにそうかもしれない。