MOONLIGHT
「典幸はそういうのじゃない。私がそういう対象としてみたのは、オサムだけだし。」
きちんと、説明したつもりだったんだけど。
何故か、瀬野将がむぅっ、とした顔をした。
「オサムって、前の旦那?」
「まぁ、そうかな。」
「……なんか、スゲームカつく。」
「瀬野将だって、前に彼女いたでしょ?」
「そりゃ…そうだけど、でも……レイみたいに自分の仕事を犠牲にしてまで、助けたいなんて思ったことない…。ましてや、結婚まで考えたことなかったし。」
「そっか…。でもね、私自分の仕事を犠牲にしたなんて思ってない。」
「え?」
「確かに、当時仕事に夢中だったけど、オサムの病院を助けることに迷いはなかった。だって、好きだったから。」
「ムカつく!!」
瀬野将が拳を自分の腿に打ちつけた。
私は、むくりと起き上がった。
「瀬野将、ちゃんと聞いて?このことちゃんと瀬野将に話しておきたいの。」
瀬野将は、私の言葉に頷いた。
体勢をいきなり変えても私から離れようとはしない弁慶を膝にのせ、体を撫でる。
私を無心で必要としてくれるぬくもりに、励まされる。
「私は、不器用な人間だから納得しないと、前に進めない。基本、人に頼らない主義で…意地っ張りで、可愛くない女。でも、オサムが頼ってくれたのがなにより嬉しくて…。結果は、こんななっちゃったけど、後悔はない。だって、失ったものより、得たもの方が多かったから。」
「得たもの?」
「うん。まず、私を信頼したくれたっていうことに対しての喜び。」
「………。」
「それから、患者さんと向き合って、得る喜び。」
「………。」
「ご家族の気持ちもわかって、協力しあう信頼感とか。」
「………。」
「あ、あとスタッフとの一体感とか。どうにか患者さんによくなってもらおうって、士気を高めていく感じが好きだったな。」
「………。」
「結局、医者としてのスキルアップにつながったんだよね。大学病院じゃ、こんなこと体験できなかったし、気づきもしなかった。だから、オサムにうらむ気持ちなんてないし。まぁ、気持ち的にももうしっかり冷めてるし……って、瀬野将?どうした?さっきから黙ってるけど?」
私が不思議に思って、瀬野将の顔を覗き込むと、瀬野将はいきなり私を抱きしめた。
弁慶が驚いて逃げ出した。