MOONLIGHT
「だって、この間、電話がかかってきて…瀬野将、奥の部屋にいっちゃったけど、怒鳴り声が聞こえたから心配して言ってみたら…『組の抗争は、抑えられません。もう、水口組の組長が、小指つめるしか手はないんじゃないっすか?』なんて、瀬野将が凄く真剣に話していたから…。」
正直に言って、立ち聞きしていたことをとがめられるかと思っていたんだけど。
電話の向こうからは、苦しそうな笑い声が続くだけで…。
いい加減うんざりして、電話を切ろうかと思ったんだけど。
『レイ…ありがとうな…。どんな俺でも好きだって言ってくれて。嫌いにならないって言ってくれて…。』
笑い疲れたのか、静かな声だった。
『鎌倉ワンワンホテル』は、残念なことに戸田の家の近所だった。
店に入ると、注目を浴びた。
そうだよね、昨日は大学の講義があったから、スーツ出勤だったんだよね。
しかも、講義の参観をしたいと何故かT大の梶教授もみえていたから、良いスーツ着てるんだよね。
フランスの老舗ブランドのスーツ。
紺色でシンプルだけど、シルエットが凄く綺麗でそれだけで華やか。
このスーツは、シャツで合わせるより、インナーにはタンクトップをもってきた方があう。
少し、襟ぐりが大胆で、ちょいセクシーって感じになるけど。
でも、きちんと感はある。
まあ、これも去年、葉山典子から送ってきたものだけど。
スーツに合わせて、ベージュのヒールも高め。
ヒールはくとつい、モデルウオーキングになっちゃうんだよね。
ショーはあんまり出なかったんだけど、事務所で嫌というほど、レッスンさせられたし。
もう、癖だ。
「すみません、瀬野弁慶を迎えに来ました。連絡が入っていると思うんですが。」
そう言うと、店の人の笑顔が固まった。
な、何だ?
「……はい、少しお待ちください。」
明らかに、テンション低いけど。
客商売でいいのかな?