MOONLIGHT
「あの……今日は瀬野さんは?」
多分、店長だろう人が、尋ねてきた。
私より、4~5歳くらい若いだろう、可愛い感じの人。
「ああ…何か、仕事が忙しいみたいで。ただ、迎えにいくようにって言われただけで…詳しい事は、ちょっと…。」
ヤクザの仕事をあんまり知られたらマズいと思って、言葉を濁した。
なのに。
「あー、今、水口組との抗争で、もりあがっていますよねー。」
店長らしき人が言葉を続ける。
え?
それって、そんなに知られていることなの?
あ、もしかして水口組って、地元?
「・・・本当に、抗争は、抑えられないんでしょうか?」
おそるおそる聞いてみる。
「さあ…。でも、水口組の若頭が指をつめたら、おさまるって話ですよね。来週それがきまるんじゃないですか?」
ら、来週きまるんだ……。
そうか、だから、瀬野将は今忙しいんだ。
何か、頭がぐるぐるしてきた。
だけど、そこへ。
元気な声が聞こえた。
「わん、わん、わん!!」
ちぎれんばかりの尻尾ふり全開で、弁慶がやってきた。
「「ええぇぇっっ!?」」
何でしょうか?
その、驚愕の表情は?
「弁慶ちゃんが、尻尾ふってる!?」
「うそ!?鳴き声、初めてきいた!?」
なんだ、なんだ。
弁慶はそんなに、無愛想なのか?
いつかの瀬野将の言葉がよみがえった。
まじまじと、弁慶を見つめる。
目がウルウルして、私に早く撫でてほしいと訴えてる。
うう…可愛い。
もう、我慢できなくて撫でくりまわした。
「「す、すごい………。」」
お店の人達の驚嘆の声。
ふと、弁慶の首に目が行った。
ピンクのキラキラの首輪。
何、これ。
ダサすぎ。
ふと首輪コーナーを見渡すと。
黒地に白のドット柄の、地味可愛い首輪とおそろいのリードが売っていた。
革製で、とてもお洒落だ。
弁慶に見せると、わん、と吠えた。
よし、欲しいんだな?
購入し、直ぐに付け替えた。