MOONLIGHT
坂田さんの娘さんは、結婚をしていて北村さんといった。
それが世間は狭いもので、北鎌倉に住んでいて戸田のお弟子さんだそうだ。
鎌倉に嫁いできてからだから30年、師範もとっているお弟子さんの中でも重鎮だそうだ。
「まあ、あがってお茶でも飲んでいってー。美智子ちゃんも一緒にねー。」
お弟子さんの名前をちゃん付けで呼ぶのはどうかと思うが、戸田だからしかたがない。
諦めて、弁慶ともどもお邪魔することにした。
玄関でぞうきんを借りて、弁慶の足を丁寧に拭く。
「何で、弁慶がそんなにいいなりになってんだ?レイちゃん、何か薬盛ったのか?」
失敬な!
私と弁慶の信頼関係に水を差すような事を言うな!!
睨みつけようとしたら、先に弁慶が。
「ヴゥーーーー!!!(怒)」
戸田に脅しをかけてくれた。
「うわっ、怖っ…。」
「変な事を言うからだ。」
ザマ―ミロ、と思いながら玄関を上がると、弁慶が抱き上げてくれとせがむように私の足に絡みついた。
そのしぐさが可愛いくて、直ぐに抱き上げた。
尻尾を振りながら、べったりと抱きついてくる。
「何で、レイちゃんにそんなに懐いてんだよー?将君にだって、そんなにべったりしねーぞ?」
不思議そうな顔で、戸田が首をかしげる。
「それは、城田先生が優しいからですよ。食べては戻すうちの父にも、注射が嫌だって泣く子供の患者さんにも、我儘なおばあさんにも、誰に対しても本当に優しかったですものね?あ、病院のスタッフの方にも分け隔てなく…清掃のおばあさんとは、よく一緒にクッキー食べてましたよね?」
ニコニコ笑いながら、北村さんが言った。
通されたのは応接じゃなくて、プライベートなリビングだった。
色々な写真が飾ってあったり、お土産みたいな飾りものが置いてあったり、色紙がかざってあったり、あまり統一感はない。
なんだ、この部屋。
まあ、掃除も行き届いて、家具は高そうだけど。
「まあ、すわって―。」
「戸田さん、私夜勤明けで眠いんで、コーヒー貰えます?」
「お、いいぞ?飯は?朝、飯食ったのか?」
「いえ、まだです。あ、弁慶に水もお願いします。」
「美智子ちゃんは、いつものハーブティーだよなー?」
そう言うと、内線電話で手配をしてくれた。