MOONLIGHT
結局、コーヒーじゃなくて、ビールが出てきた。
ま、遠慮なく頂く。
「レイちゃん、眠くなったらうちで休んで行け。明日やすみだろ?弁慶のエサもトイレも、将君がここにつれてくるから、あるし。飯の心配もいらないだろ?」
本当に、この人たちは…瀬野将といい、戸田といい私を甘やかす。
実際、疲れていて抵抗する気力もない。
ビールを飲んだら、確かに帰るのが億劫になったし。
「戸田さん、じゃあ。瀬野将に、その旨メールしておいて。仕事中みたいだから、電話じゃなくて、メール。」
サンドウイッチを頬張りながら、膝の上の弁慶を撫でる。
「おー、了解。て、レイちゃん、やっと将君の職業がわかったのか?」
戸田がニヤニヤ笑いながら、きいてきた。
「あー、まぁ。」
あんまりおおっぴらに言えない職業なので、何となく濁す。
「で、将君の正体を知って、感想は?」
ええっ。
そんなこと聞くの?
だって、北村さんいるのに?
チラチラと北村さんを見ながら口ごもっていると…。
「瀬野さんも、今忙しい時よね。」
妙に納得した表情で頷く。
え、北村さんまで知ってるの?
そんなに、水口組って有名なの?
ええっ!?
「で、どうなんだよ…俺、将君のこと息子みたいに思ってんだよ。だから、レイちゃんとうまくいってほしくてさー。レイちゃんは、将君の正体を知っても、変わらないよな?」
珍しく真剣な顔をする、戸田。
まあ、戸田が手段はどうであれ、私の事を心配して瀬野将とのことを、もろ手を挙げて応援してくれているのは、ひしひしと伝わっている。
だから、ここはまあちゃんと答えておこう。
「戸田さん、私の気持ちはは変わりません。瀬野将がヤクザって知っても、離れようって思いませんでした。」
戸田の真剣に瀬野将を思う気持ちに、私も真剣に答えた。
なのに。
「「ぶっ。」」
吹き出された。
しかも、北村さんにまで。
失礼な、と思うほど、笑われた。
「イヤー、だけど、ホストの次は、ヤクザかー。スゲーな、レイちゃん。まぁ、時期的には合ってるっていやあ、合ってるんだけどな。」
まだ肩をゆらせながら、戸田がそう言った。
なんだ、合ってるんだ?
「だけど、レイちゃん本当にテレビ見ないんだなー。」
何だ?
突然、何の関係があるのか?
キョトンとして、戸田を見ると。
北村さんが割って入ってきた。
「あたりまえです。城田先生は、それはもう働きづめで…。ずっと病院に寝泊りしてましたよね?」
「え?」
北村さんの言葉に、戸田が眉を寄せた。