MOONLIGHT
『ああ、城田。早速だが、あんたの就職先、M大とK大のほか、いつくかあたってみるから。2~3日のうちに連絡するわ。何としても大学の循環器内科に復帰させるからね?
ま、あんたみたいに腕のイイ医者、町医者なんかにゃもったいなかったんだよ。大学で2年間の遅れを取り戻せ。』
あれだけ怒っていたのに、やっぱり大畑先生だ。
就職先をあたってくれるなんて。
自然と、頭が下がった。
「先生、ありがとうございます。お言葉にあまえさせていただきます。」
素直に返事をした。
電話を切ると、目の前の男2人が私をガン見していた。
戸田は相変わらず、首の根元を指で押さえながら、興味深々の目だ。
それをあえて無視する。
それよりも。
電話がかかってきたために直ぐに消してしまったつけたばかりの煙草がおしく、じっと見つめる。
それだけはやめてくれ、と言ったオサムの言葉ももう守る必要もないので、迷わず灰皿に手をのばした。
シケモクを口の端に咥え、火をつける。
咥え煙草で、携帯のメモに『7月3日大畑先生宅訪問2~3日で連絡予定』と入れた。
後で、手帳に書き込むためだ。
「はあ…本当に煙草、好きなんだな…旨そうに吸うな。だけど、一旦消した煙草は体にスゲー悪いから、止めとけよ。」
勘違い男瀬野が、苦笑気味に、それでも真剣にそう言った。
そんなこと、わかっている。
だけど、あんたには関係ない。
私は首をすくめると、無視したまま煙草を吸い続けた。
ビールが運ばれてきた。
これを飲んだら、部屋へ戻ろう。
いい加減、うっとおしくなってきた。
その気持ちが通じたのか、タキシードの浜田は一番最初に私の前にビールを置いた。
別に、一緒に飲んでいるわけではないから気にもせず、やつらの前にビールが置かれる前に、自分のビールに手を出した。