MOONLIGHT
「瀬野将の『ムーンライト』すごくよかった。あの日、かなり精神的にダメージ受けてたの。月も出てなかったし。瀬野将の歌と踊りで元気が出た。」
「そりゃよかった。確かに『プロみたいに上手』って褒められたし…くくっ。」
「・・・大変、失礼しました。でも、よく10年も前のミュージカルナンバーあんなに上手に踊れたね?」
不思議に思っていたことを聞くと。
「ああ、オーディションを受けるために、丁度練習してたんだ。」
「え?オーディション?」
「ああ、10年ぶりに、リバイバルで『ムーンライト』上演するんだ。もちろん、主役の座を俺が、勝ち取ったけど。」
余裕の顔の瀬野将。
「凄い!!私見に行きたい!!」
「あたりまえ。『ムーンライト』の歌は、レイを想って歌うから。オーディションでもそうしたら、上手くいった…てゆうか、レイしか頭に浮かばない…。」
瀬野将の甘くかすれた声…。
何だか、恥ずかしくて俯く。
その顔を、瀬野将が上へ向けた。
「考えてみると、レイって月みたいだな。」
「月?」
「うん…上手く言えないけど。月みたいだ。」
「…そうかな?あ、だけど、私の名前の由来、月に関係してるんだよね?」
「そうなのか?」
「うん。私が生まれたのって、真夜中で。その日、すごく月が見事だったんだって。麗しいほど…だから、『レイ』って、本当は『麗しい』の『麗』ってお父さんが決めたらしいんだけど。お母さんが、出生届を書くときに麗しいが画数が多くて、面倒になっちゃったんだって。これから、ずっとこの画数の多い字を書き続けるのは私が可哀相って。で、簡単にカタカナになった、ってわけ。」
そう説明したら。
瀬野将が、豪快に吹き出した。
失礼なやつ。
ムクれていると、ごめんごめんと謝りだした。
「ふんっ。せっかく、誰にも話したことのないこと話したのに。」
「ごめんっ、て。だけど、レイのお母さんって、本当にレイに似てるな?…ぶっ。くくっ…。」
謝っているそばから、笑うってどういうこと?
ムカッ、として立ちあがったら。
「きゃっ。」
急に抱きあげられた。
慌てて、瀬野将を見上げると。
「もう、限界。抱きたい。」
甘いハスキーボイス。
私は、瀬野将の首に腕をまわした。
そして。
「私も、限界。」
そう言って、瀬野将の耳たぶを甘がみした。