MOONLIGHT
2、月のない夜に
戸田は、やはり心筋梗塞をおこしていた。
ただ、本当に初期段階だったので、早く処置を行い大事には至らなかった。
飲んでいるときは相当にウザかったが、命が助かって本当によかったと思っている。
だけど、予想外のことが起きた。
戸田を運んだ先の、鎌倉学院大学病院にはその日、循環器内科の医師がいなかった。
というより、循環器内科の医師はもともと常駐しておらず、週に2回診察のためだけに外から医師がやってくるだけだった。
いわゆる、設備はあるが医師不足、という状態に陥っていた。
鎌倉学院大学病院は、その名のとおり大学がついてる。
だが、その大学は私立大学で、あまり偏差値の高くない大学だ。
大学ができたのもここ最近で、ぶっちゃけ、医者のあまり出来がよくない子供が入る大学という内情だ。
だから、寄付金は沢山あつまり設備もいいが、いい医者はあつまらない、という状況だった。
そこへ戸田が運ばれた。
設備はいい。
だけど、医者がいない。
絶対に、大畑先生はわかっていたはず。
私が循環器専門の医者とわかり、しかもここの医局長が大学のゼミの1年上の先輩だったのが運のつき。
先輩は私の事を覚えていた。
てゆうか、かなり世話になった人だ。
お酒をのんでいるから、と断ったが、頭をさげられ、時間を無駄にできない状況とわかっているから、治療をすることをOKした。
あれぐらいの酒で酔っ払うはずはないとは思うが、命がかかっているから、近くの水道でてっとり早く、頭から水を被った。
蛇口についていた石鹸で顔を洗う。
その様子を近くにいた瀬野が、ギョッ、とした顔で見ていたが。
とにかく、酒を抜かないと。
水を大量に飲む。
時間がないので、髪も乾かさず水気を絞って、輪ゴムで縛った。
幸い、手術を行わず、点滴で済んだ。
細かい他の処置はあったが、手術にならずに済んだ。
家族を呼び、医局長と一緒に説明をした。
そこには行きがかり上か、瀬野も付き添っていた。
家族ぐるみの付き合いのようだ。