MOONLIGHT


その日の夕方仕事を終えると、瀬野将が迎えに来ていた。


このまま、ダイアモンド・ティアラ銀座本店に行く。

夕真さんのご両親が経営する世界的にも有名なジュエリーショップで、婚約指輪と、結婚指輪を選ぶ。

なんだか、着々と結婚に向けて話が進んでいくのが夢のようだ。

確かに、オサムの時はこういうのは一切なかった。

指輪はおろか、私の方のことなんか何も聞かなかったし。

まあ、向こうは結婚する気持ちがなかったんだから、あたりまえだけど。

そんなことを考えていたら、ふと気になっていたことをきいてみようと言う気持ちになった。




「ねぇ、瀬野将?」


危ないからといっても聞かないで、運転中はずっと繋いでいる、瀬野将の左手を少し引いた。


「うん?どうした?タバコか?」


ハスキーボイスは、今日も甘い…。


「いや、ずっと気になっていたんだけど。瀬野将のご両親に、私挨拶に行きたいんだけど…。ヤクザでも、瀬野将のご両親だから。やっぱり、きちんと挨拶したいし。」



オサムを呼んで今までのことが明らかになったあの日。

オサムに対して、典幸や、神田先輩、北村さんが感情的になって怒鳴ったりしていたけれど、瀬野将だけは私にただ付き添って、無言をとおしていた。

特にオサムや事務長に何を言うわけでもなかった。

きっと、私の気持ちをくんで、ただそばにいてくれるんだろうと思っていた。

けれど。

それは、大きな間違いで。

ひまわりのバッチをつけた男の人2人が迎えに来た時。

何故か、戸田さんが瀬野将に向かってニヤリと笑った。


「将君、言いたいことあったら、一言どうぞー。弁護士さんたち、ちょっと外でまっててくれますかー。」


そう言って、2人を出した後。

瀬野将が、つかつかとオサムと事務長の前に立った。


途端に、空気が変わった。

オサムの襟首をいきなりつかんだ瀬野将。


目、目がっ!

イっちゃってる!?


「お前…どうするよ?俺さー、スゲーレイに惚れちまったんだけど?聞いてりゃぁ、随分なめたマネしてやがったなー?あぁっ!?お前の1人や2人どう始末つけることだってできんだぞっ!俺の親父はなぁ、千葉で組やってんだよ!!頭かち割るかっ!?それともっ、東京湾、そっちのババァと沈めるぞ!?ゴラァッ!?」



ひーっ!!

やっぱり、瀬野将、ヤクザじゃん!





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