MOONLIGHT


「せ、瀬野さんっ!」


店長のテンションが、はね上がった。

それに、声も高く、甘い声になった。

まあ、抱かれたい男だしね。

将が営業スマイルで、どうも、と答えた。



「仕事、昼までかかるんじゃなかったの?」


予定と違う行動にとまどっている。

将は、昨日の夜からCM撮りが入っていて、帰りは午後ときいていた。


「リハも本番も一発OKだったから、早く終わったんだ。間に合ってよかった。」


成る程。

納得した私は、頷いた。


「そう、お疲れ。」

「うん、レイもお疲れ。」


ニコニコと笑う将。

営業笑いじゃないので、少し幼い顔だ。


そこへ、弁慶が店員に抱かれて連れられてきた。


「わんっ!」


ちぎれんばかりに尻尾を振っている。

床に下ろされると、一心に向かってきた。

私の所へ…。

将は、無視。


「弁慶ー、こないだから、俺に酷くないか?」


まだ根に持ってるらしい、弁慶。

だけど、少し将が可哀想になり、将も反省してるからそろそろ許してあげなよ、と伝えると、仕方がなく弁慶は将のところへ行った。


「よし、弁慶。じゃあ、帰ろう。」


弁慶が、自分のところに来たので、ホッ、とした将は弁慶を抱き上げた。

弁慶は、将に抱き上げられたのが不本意らしく、私を切ない目で見た。

うう、可愛い…。

と、弁慶に見とれていたら。


「ほら、レイも帰るぞ。」


そう言って、弁慶を抱いていない方の右手で、私の手をとった。

その行動は至ってさりげないのだけれど、私に向ける表情や声色が・・・何か甘過ぎて、恥ずかしくなり。

私は一刻も早く、店を後にしようと出口に歩き出した。


「「あ、ありがとうございました…。」」


明らかに、テンションの落ちた店長と店員の声が背後から聞こえてきた。








「ねぇ・・・いいの?」


車に乗り、将にたずねる。


「何が?」


エンジンをかけながら、こちらを見る将。

その瞳は、甘過ぎるままだ。


「何がって、今のお店の人達に私達特別な関係で、多分一緒にすんでるのもわかったと思うけどいいの?」


私の膝の上で、寛ぐ弁慶をなでる。


「ああ。もう、ネックだった、映画の製作発表も終わったし。隠すことないし。いいだろ?」


まあ、将がそういうならいいんだけど。


頷くと、将が満足気な顔をし、ちゅ、と素早く私にキスをした。


そして、上機嫌で車を発進させた。





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