MOONLIGHT


翌週、水曜日。


T大医学部の近くのカフェで、時間調整をしていた。

12時半。

気が重く、昼食なんて食べられる状況じゃなかった。

原因は2つ。


1つは、ここに私がきた理由で。

2年半前に、T大の仲間の期待を裏切って、自分のことだけを考えて突っ走った罪悪感と。

だけど、まだ私を迎えいれてくれようとする期待に、どう断ればいいのか、正直わからない不安定な気持ち。

本当に、もう一度なんて、ムシがよすぎる。



それからもう1つの原因は。

将の浮気。


鎌倉からここへ来るのに、電車を乗り継いだのだが。
東京駅で山手線に乗り換え、空いていた席に座り、ホッ、としていたら。

「瀬野将」と言う声が聞こえてきた。

気になり、そちらを見ると。

若い女性が、将の話をしていた。


「えー、瀬野将の記事でてるー。ショック…モデルとホテルお泊まり愛、だって。」

「あー、そりゃあ、あれだけいい男だしね。昔、青山夕真が好きだったんだよねー。やっぱり、モデルがタイプなんだー。」


電車の中刷りの広告。


『抱かれたい男、瀬野将モデルと熱いホテルのお泊まり愛!』


・・・はあ。

男なんて、所詮浮気する生き物だけどね。

オサムの事が思い出された。

苦い思いが甦る。


確かに、仕事で夜帰らないこともあるし。

私だって、夜勤で夜あけるし。

だけどさあ、まだ結婚前だよ?

ガックリ項垂れてると、また声が聞こえた。


「キスしてる写真も、週刊紙に載ってるらしいよ?」

「うそっ!?後で買おう!」


何故か彼女達のテンションが上がっている。


週刊紙なんて、私は絶対に買わないし!!





はあ。

だめだ、これから梶教授に会うのに。

気持ちを切り替えよう。

私は鞄から、昨日大畑先生から送ってもらったファックスを取り出した。

アメリカNYで発表された論文。

珍しい、心疾患の症例と、薬の投与の基本的改善で、治癒経過が細かく記述されている。

もし、これが本当なら、随分今まで困難だったことに、希望の光がさすことになる。

2年半前のあの研究にも、大きな関わりがある。

それよりも、循環器疾病患者を一人でも多く助ける事ができるかもしれない。


赤い線を引いた英文を何度も読み返す。







「すみません。ちょっといいですか?」



論文に集中していたら、突然声をかけられた。




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