リアルフェイス【短編】
リアルフェイス
「和(かず)くん、がんばってね」
よく晴れた空の下、あたしは喉を震わせた。
視線の先には、大好きな和くんの顔がある。
日焼けした浅黒い肌、無駄な肉のない細い顔立ち。
そこに浮かぶ小さいけれども黒々と輝く瞳は、自信に満ちている。
「大丈夫」
彼はそう言って、たくましい腕で青い胸にあたしを引き寄せた。
その時、風が吹く。
あたしの顎で切りそろえられた短い髪の毛がたなびく。
今、和くんの髪の毛も揺れているのかな。
彼の髪はあたしよりもずっと短いから、揺れてるかどうかなんてわからないのかな。
「おーい、小野田(おのだ)。いつまでもいちゃついてるな」
グラウンドから声がした。
小野田とは和くんのこと。
小野田和志(おのだ かずし)、それが和くんのフルネームだ。
呼んだのは、和くんと同じ青いユニフォームを着た、チームメイトの一人だ。
「うっせえ、今行くから」
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