リアルフェイス【短編】
もちろん、そんな音がするわけはないのだけど、あたしのなかの何かがキレたのは間違いない。
優しくできるのは、いつも最初だけ。
「ええーい、情けない!」
男のくせに、大きな瞳を潤わす鉄平。
髪の毛が焦げ茶でふわふわなこともあいまってか、女の子に見えてしまうほど、コイツは可愛い。
だけど、いつも自信なさげにうじうじしていて、イラつく。
決して、あたしが鉄平と正反対で背が高くてガサツで、男っぽいところがあるからなんて色眼鏡ではなく、心底、コイツみたいな性格でなくてよかったと思う。
「あんた、男でしょ!? 泣きわめくな! しかも、スタメンだぁ!? そんないいことでなんで泣くわけ!?」
あたしは力いっぱい鉄平を引きはがして、怒鳴りつけた。
鉄平は身を縮めて、それを受け止める。
あたしたちのやり取りを見て、由実が面白そうにクスクスと笑った。
笑うな、という意味で彼女をひと睨みすると、由実は肩をすくめた。
「だって、俺なんか点を入れられるわけがないよ……」
出た、鉄平の『俺なんか』。