リアルフェイス【短編】

嫌な予感が胸をよぎるとほぼ同時に、由実の呆れたような声が耳に届いた。


「……いつもながら、すごいわねぇ」


とっさに由実に視線をやる。


そうか。


さっき感じた視線は由実のものだ。


鉄平と話をしていて、彼女の存在を忘れていた。


和くんと目があったわけじゃないもの。


きっとさっきのは勘ぐりすぎだったのよ。


あたしは怖い。


彼に本性を知られてしまうことが。


本当は可愛い女の子なんかじゃない。


鉄平をやる気にさせるためとはいえ、あんなひどいことを簡単に言ってのけるような女。


あたしは膝をぎゅっと抱え込んだ。


足の上から、和くんを見る。


和くんは一人でボールを蹴っていた。


リフティングってやつだ。


前に蹴りだすのではなく、上に蹴って、体にあてて、その繰り返し。


< 8 / 44 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop