桜の蕾が咲く頃に
プロローグ
呼吸をするのがとても苦しい


身体は冷たいのに荒い吐息はとても熱い


身体を動かそうとしても激痛が走り、痛
みで涙が零れ落ちる


どうして自分がひと気のないコンクリートの上にに倒れているのか分からなかった


ーー私は死ぬの……?


襲ってくる死への恐怖に必死に耐えながら力を振り絞って近くにいる存在を見た


涙で歪む視界の先に右手に包丁をもった不気味に微笑んでいる女性がいる



『アンタガイナクナッタラ、ワタシハシ
アワセニナレルノヨ』


人間の容貌をしている女性が人間ではないと、薄れていく意識の中で思った


ボンヤリと女性の身体が透けて見えたからかもしれない


『ダカラワルクオモワナイデネ? ドウセアンタハイラナイソンザイナンダカラ』


ーーいや……まだ死にたくない、要らない存在じゃない……


反論したいのに瞼が重くなっていくばかりだ


女性は私に近づくと持っていた包丁を振り上げる


『バイバイ、ワタシノタメニイケニエニナルアワレナコ』


女性は力一杯に私に向かって包丁を振りかざした









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