わたしの中の 私
その日の夜、今日も部長が家を訪ねてきた。

私が扉を開けると同時に私を抱き寄せ、激しいキスをした。


「ぶ抵抗…部長……ど、どうしたんですか?」


「部長じゃないだろう。」


「えっ……あっ、矢嶋さ……ん。」


矢嶋さんと呼ぶことに慣れてない私は、お腹から絞り出すようなか細い声で部長を呼んだ。

すると部長は、目尻を下げながら笑みを浮かべていた。


「ところで優葉、昼間廊下で営業の吉田と何を話してたんだ?」


『えっ……なんでそんなこと聞いてくるんだろう。
どこで見てたのかな?
……あれ!?私のこと、今……もしかして名前で呼んだよね。』


「来週、同期のメンバーと久し振りに飲み会の約束をして……。」


「……そうか。優葉、あまり飲み過ぎるなよ。
他のヤツにお持ち帰りされるといけないからな。」


「お持ち帰りって……そんなことするのは、ぶ……あっ……矢嶋さんだけですよ。」


部長は大声で、髪をかき上げながら笑っていた。

部長が大声をあげ笑うのを初めて見た私は、部長の顔を見つめていた。


「顔に何かついてるのか?」


「……なにもついてませんよ。」


私は恥ずかしくなり部長から目を反らした。
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