ささくれとレモネード



「それってーー」


眉を潜めた息子に気づいた母は、口早に言葉を被せた。


「これもきっと何かの縁でしょう、だから、伝えてほしいのよ、」


母は唇を噛み締めて、それから目を伏せた。






高校生になった俺は、一転して陸上を嫌った。



それでもどうして隣県での噂を嗅ぎ付けたのか、ある先輩の勧誘に負けて、泣く泣く陸上部に所属した。


本当なら誰かが走る姿すら視界に飛び込んできて欲しくなかった。


勧誘してきた先輩が引退してから、俺は晴れて帰宅部員となったのだ。


それと同時に体育の授業をもさぼり始めた。


永らく大切に紡いできた糸が綻び、いよいよぷつんと切れてしまった瞬間だった。



それからは、何に対しても興味が沸かなくなった。


例えば、陸上を続けるよう何度も説得にやってきた上野のことも。


例えば、授業に参加する意義というものも。


放課後、バイト先へ向かう俺の背中では、駆けていく足音も、ボールの跳ね返る音も、掛け声も、バッシュの滑る音も、管楽器のロングトーンも、楽しそうな笑い声だってーー


熱量を持った数々の音が飛び交うのが、いつの間にかノイズのように聴こえ出して、俺は足早に逃げ出した。


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