ささくれとレモネード
自暴自棄になっていた俺でも、何とか進級が出来た、というより「させられた」。
千原の、教師としては寛大すぎるほどの心遣いは、当時の俺にはちっとも有難くなかった。
しかし結果的には、与えられた課題をやり遂げた。俺の中にもちっぽけながらもプライドが残っていたのだ。
俺は臆病だと思った。
高校を辞めてからの将来を想像しても、真っ暗で足の踏み場すらなかったのだから。
「貴方、いつまでここに来るつもり」
保健室の引き戸をノックもなしに開けると、顔を上げることもなく言葉の棘を飛ばしてくるのは、佐伯だ。
同じ時間に保健室にやってきては不審に思われるのも当然だし、弁解するつもりもなかった。
「うっす」
今日も返事になっていない言葉ではぐらかして、クリーム色のカーテンを仕切った。
スプリングが軋む音は好きじゃない、そう思いながら溜息をひとつ吐くと、突然カーテンを開かれた。
「貴方、何を怖がってるの?」
間抜けな顔をして見上げると、佐伯が居た。
真っ直ぐな視線に心の内を見透かされそうで、堪らず右腕で両目を覆った。
無言の抵抗に呆れたのだろう、暫くしてカーテンを勢い良く閉められた。
綺麗な顔をしているのに恐ろしい人だーー腕を下ろしながら、肩を竦めた。