ささくれとレモネード
睡魔が段々と強くなってきた頃、カラカラと引き戸が開く音がした。
「失礼します」
そのか細い響きが、わずかに意識を引き戻した。
「あら、北村さん。珍しいわね」
ぼそぼそとした返事に耳を澄ますがよく聞き取れない。
対称的に、やけに朗らかな佐伯の声だけが、暫くはっきりと聞こえていた。
"北村さん"と佐伯のやり取りのお陰で、睡魔はすっかり吹っ飛んだ。
そのうち"女性の事情"というものが耳に入ってきて、どうにもこうにも居たたまれなくなる。
息苦しくて喉元がくっ付いてしまいそうだ。
屋上にでも行って暇を潰した方が良さそうかーー出るタイミングを窺っていたその時だった。
けたたましく鳴った、保健室の固定電話。
丁寧な口振りから、相手は職員室のそれのようだった。
ちょっと出てくる、そう呟いて近づく足音に、乗り出していた身をすかさず倒した。
シャッーーとカーテンレールの音がすると、その顔と目が合う。
佐伯は不相応に眉を下げていて、そして一言静かに囁いた。
「あの子、今に泣くかもしれない」