ささくれとレモネード



改めてまじまじと見つめる自分の靴は、揃って綺麗だった。



中学生の頃は、砂にまみれ、汚れ、擦り減った靴が勲章と言えた。


自分が何よりも身を費やしているものがこれだと言えることを、俺は誇りに思っていた。



そんな世界が反転したのは、ある日突然のことだった。


俺が”汚れた靴”を手放した瞬間に、巻き込んだ人たちが居る。


その一人が上野であり、一つ年下の岡本だった。


だから、彼らには全部と言わないまでも、本当の気持ちを伝える義務が、俺にはあった。



気配で、目の前の空気がざわついているのを感じる。


「顔、上げろよ、」


焦るような声色で俺は顔を上げた。


飛び込んできたのは、色んな角度から、色んな感情を含んだ視線。


俺はそれを厭わなかった。


「お前の伝言、聞いたんだ」


「ーー北村さんから?」


「ああ、でも、」


一呼吸置く。どくどくと脈を打つのが耳の方まで伝わってきた。



「俺はここには戻れないよ」


上野は息を呑んだ。そうして眉間の皺を緩くさせると、静かに呟いた。



「どうして走らなくなったのか、そんで、どうして突然この前は走ったのか、それだけ訊かせてくれないか、」


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