ささくれとレモネード
「ううん、大丈夫」
口元を無理やり上げてそう言うと、すかさず三浦が口を挟んだ。
「辛いんだったら無理しないで保健室行けよ、」
保健室ーーその言葉に、榛名はすかさず反応した。
振り返って、きっ、と睨み付けると、三浦は涼しい顔でペンをくるっと回していた。
3秒、それでもこちらを見ない。いよいよ榛名は地団駄を踏みたくなった。
*
三浦が泣き崩れたあの日、榛名の頭の中で、何かが弾ける音がした。
『誰も守れない』と言った三浦を、守ってあげたかった。
彼を苦しめる得体の知れない靄の中から、彼の手を引いて連れ出してあげたかった。
「ーーハル、」
三浦が馴れない呼称を口にしたとき、なにか、追いかけてくるような切なさが広がる。
ふと遠い昔の思い出が、腕を掴みかけたところで、榛名はそれを手放した。
くちびるが離れた瞬間、左右する喉仏に目を奪われて、はっとした。
彼は男なのだと、我に帰って榛名は仰け反った。
けれども強い力に阻まれて、三浦との距離は再び近くなる。
眼前にはもう、色を映していない瞳は無かったけれど、でも。
「ハル」