ささくれとレモネード
「別にどうだっていいよ」
「どういう、ことだよ」
「仕方ないだろ?俺にはブランクがあるんだ」
榛名は息を呑んだ。
「例えば俺もお前もアンカーでーーそうなったところで、目に見えてるだろうよ結果は」
振り返れば、見覚えの無いほどシニカルな微笑みを浮かべていたのは、三浦だ。
背後で上野が前のめりになったような気がした。
「でも、」
「なんだよ、」
「全力で走るってことだけは約束するよ」
そう言うと、ふふ、とこの場に似つかわしくない穏やかな息を漏らして、彼は荷物をまとめた。
そうして、すく、と立ち上がると、三浦はじっと上野を捉えた。
「間抜けに見えるぞ、口開けてると」
おそらく拍子抜けしていたのだろう、三浦の指摘を受けて、上野は声を上げた。
「うるせえ」
三浦の表情に『戦闘態勢』の文字は見られなかった。
それを悟った上野自身の、去り際に友人を捕まえていく背中はどこか嬉しそうに見えた。
二人のやりとりに思わず笑みが零れる。
多分、自分の知らないところで、彼らはお互いに心を砕いて思案したのだろう。
そうでなければ、きっといつかのように、殴り合いの喧嘩になっていたはずだ。
人気が少なくなりつつある教室で、榛名も荷物をようやく纏める。
「北村」
彼が遠慮がちに呼んだのは、その時のことだった。
数秒前、それから、委員会が始まる前までとは別人のような、余裕のない顔をして。