ささくれとレモネード
長机の前に所狭しと並んでいる黒い頭たちの隙間を見つけると、榛名は上野と並んで腰掛ける。
校舎の方から昼食を終えた生徒たちがグラウンドへと降りてきたので、榛名はマイクのスイッチに指をかけた。
「只今より学級対抗リレーを行います。代表の選手はテント横へ、クラス毎に集まってください。」
案内を繰り返したのち、上野がさてと、と立ち上がる。
その腕にたくさんのゼッケンを引っかけていたので、見兼ねた榛名が半分を受け取った。
これも!と別クラスの委員に呼び止められ、襷を受け取りテントの外に出る。
炎天下の中、リレーの代表が順調に集まってくる。その集まりをぐるぐると回りながら、色とりどりのゼッケンを手渡してゆく。
「そういえば俺も代表だった」
一通り終わると、上野は惚けたようにそう言って、榛名の笑いを誘う。
「これ、一位取ったら総合優勝見えてくるよね」
「それ、結構プレッシャーかけてるよね」
流し見る上野に、榛名は焦って『そんなことないよ』と両手を身体の前で扇いだ。
彼は、ふっ、と息を漏らして、それからゼッケンを被りながら呟いた。
「ちゃんと応援しててよ」
榛名は意気揚々と頷き、勿論、と言いかけた時だった。
「三浦じゃなくて、俺、ね」
返事を遮るように上野は言う。
彼は唇を引き結ぶ。それは一瞬で解けて、茶目っ気を含んだいつもの笑顔に戻った。
そうして、彼はくるりと踵を返す。
入場門へと続く人の集まりに消えてゆくのを見つめる間、ざわつき出した胸の辺りに手を翳した。
思えば、ゼッケンを手渡す際に三浦の姿を見かけなかった。
時間の制限というのに追われて仕事に一生懸命だった所為なのか、ということは上野が三浦にゼッケンを手渡したのかと思うと、彼らの間にあったわだかまりが完全に消えたのだということも感じた。
なんだか信じられないような、それでいて嬉しくて、どきどきする。
そんな複雑な心の内をそっとしまうと、榛名はひとつ息を吐いて、クラスの応援席へと戻った。