ささくれとレモネード



そして昨日のことだった。


「本当に、深い意味は無いの」


2週間ぶりに帰りしなの三浦を迎えたところ、榛名はそう切り出して、あるものを差し出した。


あまりに唐突なことに三浦は憮然としながらも口を開いた。


「これ?どうした」

「うん。あのね、これはその、」


青と緑と白。三色の糸が編み込まれたそれは、彩花に編み方を教わったミサンガ。


けれどもそれは、今度は新しい糸で、ついでに気持ちも多少込めて、一から作り直したものだった。


榛名はそれを三浦の前に差し出しながら、すうっと息を吸い込んだ。


「三浦くん、選抜リレー出るって言うから。『怖くないって言ったら嘘になる』って言うから。なんならその、近くの神社にお参りしてきたし。だから有り難く貰ってくれたらきっと、」


ちらりと盗み見ると、驚いているような彼と目が合う。

だけどその両目の際がすぐにーー確かに下がった。


「うん」


続きを促すような相槌に、榛名は尻すぼみになりながらも口を動かした。


「躓かずに転ばずに、ちゃんとゴールには、辿り着けるのかな、と思ってーー」


すっきりと言い切らない口調の自分に嫌気が差して、顔を上げることなんてとても出来そうにないと思ったのに。


「それ、本当に深い意味、無いの?」


三浦がそう言うと、榛名は条件反射で顔を上げてしまった。


顔を上げたきり、口をぱくぱくと動かして、目線は落ち着くところがない。


こんなキャラじゃない、しっかりしろと、榛名は自身に喝を入れる。それから力に任せて返事をしようとすると、三浦が噴き出した。


「なんで笑ったの」

「いや、なんか新鮮な顔見れたなあと思って」


そうして肩を揺らして笑うものだから、榛名はつい油断してしまったのだ。


< 129 / 136 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop