ささくれとレモネード
彼はおそらく陸上部だと、榛名は確信した。
それは三浦の走りを見れば歴然だった。
しなやかなフォーム、躍動する身体。
榛名の前のめりの姿勢とは真逆に、彼の背筋はすっと通っていた。
風を切るとはこのことかと、白線を踏み越える気迫に圧されて、榛名は手を滑らせた。
すんでのところでストップウォッチをしっかりと止める。
その画面を見て榛名の目が点になった。
「何、これ」
そうして暫く固まっていた後ろ姿を覗きこもうとすると、振り返った彼女に三浦は驚いた。
何だこの目の輝きは、と。
「すごいね。やっぱりエースなんでしょう」
口元を隠し、自分の顔と表示されたタイムを交互に見ている。
三浦にとっても、ましてやそれを得意とする者にとっても、決して誉められた記録ではなかった。
それを、得体の知れないものを見たというような感動をぶつけられている。
「そんな褒められたもんじゃない」
「いいよ、謙遜なんて。大会も常連なの?
」
興奮のあまり口調が急いている榛名に、いよいよ三浦は戸惑った。